健康

2017/07/03

飛行機に乗ると不調や病気は起こりやすくなる? 実際に機内で急病人を診た医師の話

飛行機に乗ると不調や病気は起こりやすくなる? 実際に機内で急病人を診た医師の話

仕事や趣味の関係で飛行機によく乗るという人も多いでしょう。定番のシチュエーションの中には、客室乗務員が機内で「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」と呼びかけるものがあります。機内では身体の不調や病気が起こりやすいのでしょうか? 専門家が解説します。そして、実際に飛行機の中で急病人の対処にあたった医師のエピソードも聞くことができました。



飛行機に乗っていると起こりやすい体の不調・病気は?


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飛行機の機内では、人々は特殊な環境に置かれます。それが人間の体に様々な変化をもたらすのです。高高度を飛ぶ飛行機には、人間を守る生命維持装置ともいえる装備がされています。

  • 気圧を一定にする
  • 酸素を機内にとりこんでいる
  • 緊急時に酸素マスクが装備されている

つまり、それほどに人間の身体にとっては大きな影響を与える場所を飛行機は飛んでいるわけです。周囲の空間とは飛行機の機体で隔たれているものの、機内では様々な身体への影響が現れてきます。


起こりやすい身体の不調

気圧の変化が身体に不調を起こします。

  • 耳が痛い
  • 耳が詰まった状態

などが、一番多いです。他にも、

  • ・胸が詰まった感じがして、胸やけ状態になる
  • ・足がむくみ靴が痛くなる
  • ・虫歯がある場合は痛みが出る
  • ・まれに尿失禁が起こる
  • ・お腹が張り、痛くなる
  • ・乾燥により、鼻の痛みやのどの渇きが出る
  • ・舌の感覚が鈍くなる
  • ・脱水症になりやすい
  • ・息苦しくなる
  • ・腰痛が出る

といったような身体の変化が出てきます。


起こりやすい病気

航空性中耳炎が有名ですが、危険な病気もあります、特に海外などの長距離飛行の場合は、注意が必要です。エコノミークラス症候群が一番生命にかかわることになります。その他にも、

  • パニック障害症
  • めまい
  • 自律神経失調症
  • 閉所恐怖症

といった病気が起こることもあります。また、気圧と湿度が低いことで悪化する可能性のある、疾患は多くあります。以下に、病気と飛行機との関わりで注意すべきポイントをご紹介します。


エコノミー症候群

機内で起こる一番危険があるのは、エコノミー症候群(ロングフライト血栓症、旅行者血栓症)です。長時間同じ体勢で4時間を超えるとリスクが高くなります。

エコノミー症候群リスクの高い方

  • ・高齢者
  • ・肥満症
  • ・女性
  • ・喫煙者
  • ・薬を飲んでいる方
  • ・更年期障害のホルモン剤・低用量ピルを服用中で喫煙している方

喘息

喘息は自分のお薬を持参して、前もって航空会社に持ち込みの許可をもらってください。

喘息をお持ちの方は、搭乗して席についても落ち着いていますが、出発をして離陸に突然発作を起こすことがあります。発作時に吸入薬と、ステロイドを持参してください。よく喘息を起こされる場合は、予約時に喘息があることを伝えてください。


慢性閉塞性肺疾患(COPD)

COPDの患者さんは、自分の酸素ボンベを日常使用していますが、機内への持ち込みができませんので、あらかじめ航空会社病気を提示して、酸素ボンベを用意してもらってください。


気胸

過去に気胸を起こしたことがある方は、搭乗できないこともあります。


風邪・インフルエンザなど

普通の風邪でも咳が悪化することがあります。軽い風邪では搭乗を断られませんが、インフルエンザの場合は搭乗をやめてください。

インフルエンザ以外にも、SARSやMRSA中東呼吸器症候群、結核などの確定診断がついている病気を知りながら搭乗したら、大変な問題となります。特に妊婦さんの場合は注意が必要です。


その他

狭心症や心筋梗塞・間質性肺炎などは注意が必要です。


なぜ飛行機では身体の不調などが起こりやすいのか

閉鎖的環境の中で狭い椅子に長時間座わると、血液が流れにくくなります。血栓が心臓に行くと心筋梗塞、脳に行くと脳梗塞の恐れがあります。

また、気圧の変化など、環境の変化に伴い体調不調に陥ることがあります。

ポイント

  • フライト中は環境の変化などによって身体に不調が現れることがある
  • 持病などがある場合には、軽視せずに確認を怠らないこと

飛行機に乗っても身体の不調などが起こらないようにする予防法は?


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エコノミークラス症候群の予防が中心になります。

  • 足を上げ下げする
  • 水分を多めに取る
  • 頻繁にトイレに行く
  • 背伸びをする
  • リラックスを行い、興奮することを避ける
  • 緩めの服を着る(体を締め付けると血液の流れを妨げる)

以上のことを行えば、エコノミークラス症候群のリスクを減らすことができます。

ポイント

  • フライト中はエコノミークラス症候群に注意しよう
  • その他の病気については、事前の治療や予防を

飛行機の中での急病人対応


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最後に、実際に飛行機内で急病人の対応を行われたエピソードをお聞きすることができました。

飛行機内での急病人の対処は、25年前、ニューヨーク発東京便でありました。この日は、朝7時00分発の飛行機で東京に帰る予定でした。

出発の時刻になっても、飛び立たつアナウンスがなく、約20分後に客室乗務員よりアナウンスがあり、出発前に点検を行い、異常を確認したのでチェックと修理に1時間かかるという旨のアナウンス。

しかし、1時間経っても2時間経っても出発はしないまま、全員が機内に残ったままでした。3時間してから、やっと出発のアナウンスがあり、ようやく離陸となりました。

フライトから6時間後、機内にドクターコールがあり、私はすぐに駆け付けました。患者さんが3名いると客室乗務員に言われて見に行くと、女性が2人と男性が1人。

最初の女性は出産間近の妊婦さんでした。2人目の女性は過換気を起こした若い女性さん。男性は呼吸がしにくそうな若い方。

駆け付けた医師は2人で、私の専門は救急、もう1人は内科医でした。

まず、トリアージを行い、一番危険な患者さんを選びました。
(註:トリアージ=患者の重症度に基づいて治療の優先度を決め選別を行うこと。識別救急とも)

内科医は息が苦しい男性の診察をしました。気胸と分かったので、救急キットで脱気をしてもらい、酸素ボンベで呼吸補助の依頼をしました。

もう1人の過換気の女性は、客室乗務員にお願いし、呼吸方法の誘導をしてもらいました。10分後にはよくなり、座席に帰られました。

私が診ていた妊婦さんは、痛みをこらえる仕草を行い、力みかけました。私はやばいと思い、スカートの中を見ると、破水する寸前でしたので、きれいなタオルを用意させてお尻に敷き、もう1枚のタオルを陰部にあて羊水が出てくるのを押さえていました。

機長に一番近い空港への着陸をお願いし、あと1時間でホノルルに着陸できるとのことでしたので、着陸と同時に救急車と産婦人科の医師を手配するつもりでした。

しかしながら、30分後には、妊婦さんは破水を起こし、赤ちゃんの頭が見えてきてしまいました。妊婦さんも体力の限界が迫っていたため、機内での出産を決行しました。

客室乗務員さんに妊婦さんの手を取ってもらい、落ちつかせてもらいました。出産したのは、それから20分後。着陸を伸ばさせて行いました。

出産後、赤ちゃんをすぐにお母さんの胸に抱かせ、カンガルーケアと同時に吸引を行い、赤ちゃんは産声を上げました。少し小さめの女の子でした。
(註:カンガルーケア=親が直接赤ちゃんを素肌に抱いて保温する新生児ケア)

機内からの歓声はものすごく、私と内科医はホッとして、客室乗務員に着陸と機長への報告をお願いしました。

ホノルルに着陸後、産婦人科医に妊婦さんと気胸の男性をEMTに引き継ぎ、サインして、東京に出発。
(註:EMT=Emergency Medical Technician。救急救命士。パラメディックとも)

東京に到着した後、ホノルルの病院から、電話で母子ともに健康との連絡を受け胸を撫で下ろすと、私と内科医の2人でコーヒーで乾杯を。ホッとしました。

この出来事は一生忘れられません。残念なのは、その時の内科医が後に別の感染地帯に医療として派遣され、感染症で亡くなってしまったことです。

この機内の出来事が、医師としての私の考えや行動を変えるきっかけになったのです。今は、学生や研修医に教育する立場ですが、現場の大事さと患者さんの声を聴くことを教えています。

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